AIが1,000疾患のリスクを予測 国際研究が「未来の病気」を可視化

AIが1,000疾患のリスクを予測 国際研究が「未来の病気」を可視化

Amemiya Eito | 01-10-2025

欧州の国際研究チームが開発したAIモデル「Delphi-2M」が、将来の疾患リスクを最長20年前に予測できる可能性を示した。研究成果は2025年9月、学術誌『Nature』に掲載された。

ドイツがん研究センター(DKFZ)、欧州分子生物学研究所(EMBL-EBI)、コペンハーゲン大学などの国際共同研究チームによるこの研究では、英国バイオバンクの約40万人分のデータでモデルを学習し、さらにデンマークの190万人分のデータで検証を実施。心血管疾患や2型糖尿病などの慢性疾患で高い予測性能を示し、発症の有無だけでなく「いつ起こりうるか」を確率的に予測できることが明らかになった。

生成AI技術を医療データに応用

Delphi-2Mは、ChatGPTなどと同じトランスフォーマー型の生成AIアーキテクチャを基盤にしている。個人の診療履歴、年齢、生活習慣などを時系列データとして処理し、最長20年先の健康軌跡をシミュレーション可能な点が特徴だ。

モデルは1,000以上の疾患について、年齢・性別による層別化でAUC(予測精度指標)平均0.76を達成。死亡予測では0.97という高い精度を記録した。研究チームは説明可能AI(XAI)手法を用いて予測根拠の可視化も試みたが、学習データの偏り、人種・年齢層の代表性、データソース由来のバイアスなど複数の課題も指摘している。

論文の筆頭著者であるDKFZのアレクサンドル・シュマトコ氏は、「このモデルは個別化医療や医療システム計画に貢献する可能性がある」としながらも、「臨床現場での即時利用には、さらなる検証と規制整備が必要」と慎重な姿勢を示している。

日本でも進む医療AIの実用化

日本国内でも医療とAIを組み合わせた研究や社会実装が加速している。

うつ病診断支援AI:2025年7月11日、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)と広島大学、XNefが共同開発した「XNef-Brainalyzer解析プログラム」が、うつ病の客観的診断補助を目的としたプログラム医療機器として薬事承認を取得。fMRI(機能的磁気共鳴画像法)を用いた脳活動データをAIで解析し、診断精度向上を支援する。

心不全診断AI:東京大学医学部附属病院循環器内科の小寺聡特任講師らの研究チームは2024年8月、マスクドオートエンコーダー(MAE)を用いた心電図解析AIを開発。単一誘導心電図から心機能低下を高精度に検出でき、在宅医療やウェアラブル機器への応用が期待されている。

胃がん手術支援AI:国立がん研究センター研究所の浜本隆二分野長らは2025年2月、ベイズ機械学習を活用し、上部胃がんにおける脾門部リンパ節転移の確率を予測するAIモデルを開発したと発表。不確実性を考慮した臨床判断支援システムとして、手術の必要性判断に貢献する。

内視鏡診断AI:AIメディカルサービスが開発した内視鏡画像診断支援ソフトウェア「gastroAI model-G2」は、2023年12月に薬事承認を取得し、2024年3月に発売開始。撮影から0.15秒以内で早期胃がんなどの病変候補を検出し、内視鏡検査中の医師の診断を補助している。

予防医療への期待と課題

国際研究と国内の取り組みは、いずれも「診断・治療から予防・予測へ」という医療の大きな転換を示している。AIによる疾患リスクの可視化が進めば、患者一人ひとりに合わせた個別化医療や、社会全体の医療費抑制につながる可能性がある。

一方で、専門家は慎重な見方も示す。「AIモデルの予測精度が高くても、学習データの偏りや集団間の公平性、予測結果の解釈可能性など、臨床応用には多くの検証が必要」と、医療AI研究者は指摘する。特に日本では高齢化が進む中、多疾患併存(マルチモビディティ)への対応が急務とされており、今後は複数疾患を統合的に予測・管理できるシステムの開発が期待される。

医療AIの社会実装が加速する中、技術開発と並行した倫理的ガイドライン整備、医療従事者への教育、患者への適切な情報提供が、今後の重要課題となっている。


参考文献
  • Shmatko, A., et al. (2025). Learning the natural history of human disease with generative transformers. Nature.
  • 東京大学医学部附属病院プレスリリース(2024年8月14日)「心電図解析に画期的なAI技術を導入」
  • 国立がん研究センタープレスリリース(2025年2月25日)「上部胃がんにおける脾門部リンパ節転移を予測する機械学習モデルの開発」
  • AIメディカルサービス製品情報(2023年12月26日)

本記事は医療技術に関する報道を目的としており、特定の診断・治療法を推奨するものではありません。

無料AIの知識を今すぐ入手!

最新AI情報をメールで受け取る

業務効率化やクリエイティブに役立つAIツールの最新情報とガイドを無料でメール配信!
今すぐ登録して始めよう。